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『養生の実技』を読む

養生の実技
五木 寛之 / 角川書店
ISBN : 4047041637
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長く走り続けるための体は、一朝一夕には作られない。
「立てた計画は必ず実行する」
「強い意思を持ってことにあたる」
「ねばり強く頑張りぬく」・・・・・。
こういったネバーギブアップの精神は、スポーツの中でも、ことのほか長距離ランナーとしてのの成否を左右する大切な要素である。

しかし、この要素を、競技を目的としない一般ランナーに求めることは望ましくない。
「長続きしない」
「体調を崩す」
「楽しくない」
ということで、走ることでクォリティーオブライブを向上させようという、ジョギング本来の目的から離れてしまうからだ。

一般のランナーにとってはネバーギブアップとは反対で、
「立てた計画は自在に変更していく」
「何が何でも、という頑なな考えは捨てる」
「常に体と対話し、無理をしない」
という姿勢が、いろいろな点でうまくいく。
3年ぶりで出場したフルマラソン(04年荒川市民マラソン)を、苦しみながら走って実感したことである。

『養生の実技』を読みながら、
「なるほど、ランナーにとって大切なのはこのことだ」
と、思わず膝をたたいて納得したのは、次のくだりである。

「屈しない心は折れる。よく萎える心は折れない。・・・・・曲がることのない枝は、どんなにつよくとも折れる。史上最高の34,427人という昨年の自殺者の数は、ポッキリ折れた心の数だといっていい。
同じように、つよくてかたい体も折れる。屈すること、しなうこと、曲がることは、体にとっても大事なことなのだ」

同感である。
「治療よりも養生。日ごろの用心がまず第一。治療では手おくれだ」とも。

ランニングでも同じ。
走っても折れない、しなやかな体こそ、理想的なランナー像だと思いたい。
故障しないためのケアに、時間と金を惜しまないことが大事である。

五木寛之さんの人間観には、
「人間は生まれながらにして病んでいる」
「人間はもろいものだ」
という諦念がある。
数ある著書の中で、折に触れて病気のことや健康について語ってきた。
たとえば、こんな一節がある。

「ガン細胞や、病気や、障害を<悪>とみなし、それをやっつける、戦って勝つ、叩きつぶす、という姿勢には大きな無理があるような気がしてまりません。・・・・・否定から出発するのではない、新しい肯定の思想、<同治>の思想が、本当に人間を救うのではないか」(『生きるヒント2』)

『養生の実技』は、治療よりも養生、すなわち、いかにつよくなるかではなく、いかによく曲がるか、いかによく萎えるかについて、五木さんご自身の体験から考察したレポートである。

ふだんの健康管理の一助として、またランニングを長く楽しむためにも、多くの示唆に富んだヒントが随所にある。ぜひ、ご一読を。
by hasiru123 | 2005-04-29 13:18 |