過去から学ぶ

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

猪瀬 直樹 / 中央公論新社


今から70年前。日米開戦を直前に控え、30代の若手官僚で組織された「模擬内閣」がシミュレーションを行った。それは、その後の敗戦をたどる経過と同じ道をたどった。総力戦研究所の研究生が出した結論は「日米戦日本必敗」、昭和16年8月のことだった。

同年10月に第3次近衛内閣が総辞職し、その2日後に陸相の東條英機が総理大臣に就任する。行き詰った日米交渉を打開すべく最後の内閣ができた。その経緯は、最近読んだ猪瀬直樹著『昭和16年夏の敗戦』で知ることができる。膨大な資料と当事者たちの証言を駆使して、総力戦研究所での模擬演習と東條内閣が開戦を決めるまでの過程を行きつ戻りつしながら、「なぜ大国アメリカと戦争をやってほんとうに勝てると信じていたのか」の1点に焦点を当てている。

後の歴史教科書が書いてきた「東條独裁」に異を唱え、「軍部の独走」は旧憲法の制度的欠陥によるものである。明治藩閥政権時代には、山縣有朋に代表される元勲らの権威が人為的にカバーしてきたが、東條にはその力はなく、ただの官僚にすぎなかった。「日米開戦の原因を、「東條」という一人の悪玉に帰するのは、あまりに単純すぎる」と書いている。

さらに、天皇の発言について10月20日の『木戸幸一日記』を引用して、「今回の内閣の更迭は一歩誤れば不用意に戦争に突入することとなる虞あり・・・いわゆる虎穴に入らずんば虎児を得ずということだなと仰せあり、感激す」。天皇が言った諺は、この場合日米開戦を決めた御前会議の「急先鋒の東條に「白紙還元」の十字架を背負わせて首相にしてしまうことだった」と解説している。

話はがらりと変わるが、きのう映画「J・エドガー」を見た。20世紀の半分を占める48年間にわたって、アメリカで大統領さえ及ばない強大な権力を手中に収めた男の物語である。FBI初代長官として、アメリカの秘密を握ってきた。60年代になると自分の業績を回顧録に残そうと、自らの過去について虚飾も交えて語り始める。ロシア革命以降、アメリカの共産主義者や労働運動家の過激派によるテロが激化し、独善的な中にも多くの成果を挙げ続けた。

20年代や60年代などの様々な歴史的な場面が行ったり来たりして、見始めたときはなかなかストーリーの展開についていくことができなかった。しかし、テロや誘拐などシリアスなシーンには何度か息を止めた。J・エドガーに扮したレオナルド・ディカプリオや、部下の副長官を演じるアーミー・ハマー。そしてプロポーズには失敗したものの個人的な秘書にすることには成功したヘレン役のナオミ・ワッツなど、特殊メイクで工夫を凝らした演技には舌を巻いた。時代の変遷を感じさせるのに十分な役づくりだった。

部下とのつきあいが友情以上の交際に深まっていくところや母親との強い絆など見どころはたくさんあったが、私がもっとも興味を惹かれたのは、予告編にあった次のコピーだった。

「過去から学ぼうとしない社会は滅びる」
「歴史を決して忘れるな」

正鵠を射ていると思う。そのせいか、先の総力戦研究所の模擬演習で出された経過と、そこから解決策を引き出せなかった東條内閣の意思決定のまずさに引きずられながら、この映画の本質について考えさせられた。国を守るという大義名分のもとに政治家のスキャンダルやFBI長官の権限縮小に走ろうとする歴代大統領について極秘ファイルを収集したりして、違法で差別的な正義を振りかざす。当時の日米間の緊張の中で、日本とは別の次元でアメリカも意思決定に迷い続けていたのではなかったかと思えたからである。
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by hasiru123 | 2012-02-12 21:21 | その他  

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