夢のマラソン

WBC準決勝のプエルトリコ戦

これまで打線が不調で苦しい試合が続いていた。そのを闇を突き抜けたのは、台湾を制した一戦だった。WBCの2次ラウンドである。

鳥谷敬や井端弘和の活躍もさることながら、最後まで手に汗を握る面白い試合を演じてくれた日本と台湾は素晴らしいチームだった。8回裏に台湾に逆転されたときは、これまでかと(私が)諦めかけていたのを、9回表2死1塁の場面で、この二人のコンビで同点とした。これが、10回表の逆転のトリガーとなった。夜の12時近くまでテレビから離れられなかった。

いい流れで準決勝を迎えたかに見えたプエルトリコ戦。8回裏内川聖一の走塁ミスが勝敗を分けた。反撃のムードが高まった時だっただけに、なんとも残念な結果だった。2塁走者の井端か、それとも1塁走者の内川のどちらかのサインの見落としだったのか。

新聞の報道を見る限り、ベンチのサインは「走れたら走れ」だったといわれる(3月19日毎日)。8回裏で2点差。1死1、2塁で、打席は主将で4番の阿部慎之介だ。この場面で、重盗は理解できない。ベンチは何をしようとしたのだろうか。ミスの原因は・・・など、わからないことが多い。

私は、阿部への2球目のシーンをビデオのスローモーションリプレイで、何十回となく見直した。スローモーションとはいえ、私にはたった3秒間の出来事が速すぎて、なかなか脳裏に焼きつけることができない。そこで、ビデオを止めたり、進めたり、戻したりして、投手と2人の走者、打者、捕手の一挙手一投足を時系列に整理してみた。投手の動作から攻守に関わる選手たちの行動が始まるので、左腕J・C・ロメロの動作と投げた球の位置を基準に井端と内川の動きを確認しようと考えた。

①ロメロがモーションをかけ、右足が上がった
 井端:走り始めた
 内川:まだロメロと井端の様子を見ていて走り始めていない
②ロメロから球が離れる直前
 井端:3歩ほどダッシュした後、走りをやめた
 内川:走り始めた
③ロメロが投げた球を阿部がのけぞって避けた
 井端:2塁へ戻り始めた
 内川:1塁と2塁の真ん中あたりを走っていた
④捕手のヤディエル・モリーナが球を持ったまま2塁へ走り始めた
 井端:2塁へ戻った
 内川:2塁から約3メートル手前まで到達した

①から④までの時間は、わずか3秒間だ。ここで問題となるのは、井端にはどういうサインが出て、どう理解したかである。 同じく、内川にはどういうサインが出て、どう理解したか。私の拙い野球の知識からひねり出したケースは、以下のとおりだ。

ケース1 井端には「走れ」だったが、内川には「走れたら走れ」だった
ケース2 井端には特にサインはなく、内川にだけ「走れたら走れ」だった。つまり、井端が走ったら「走れ」ということだった
ケース3 井端と内川には「走れたら走れ」のサインだったが、井端が自重して、内川が井端の動きを確認しないまま突っ込んだ
ケース4 井端と内川には「走れ」のサインだったが、井端はいったんは走り出したが、何らかの事情で自重した。しかし、走り出した井端を見た一塁コーチが内川に「走れ」のサインを出し、内川が井端の動きを確認しないまま突っ込んだ
ケース5 井端と内川には1球目から「走れたら走れ」のサインが出ていたが、何度か変わったサインに井端と内川が混乱し、どちらかがまたは両者ともサインを勘違いした

ケース1からケース5までで、どれもありそうに思える。私が着目したのは、時系列の②である。「ロメロから球が離れる直前に、井端は3歩ほどダッシュした後、走りをやめた」。投手がまさに投げようとするとき、走者にとっては走るか走らないかをまだ決める段階ではない。それなのに、なぜ止まったか。井端から捕手のモリーナの盗塁を見破ったかのような仕草が見えたのだろうか。ビデオからはモリーナの動きを確認することはできない。けして井端のスタートはよくなかったが、悪くもなかった。走り始めたときにバランスを崩した様子も見られなかった。悪送球で、捕手が球の処理に手こずることだってありえるのに。ここで止まったということは、このケースでの盗塁はなかったということにならないか。にもかかわらず、内川は走り始め、そのまま2塁へ全力疾走した。

この場面では、井端は走るつもりはなく、走る素振りを見せただけなのだ。自重したのとも違う。そもそも、走ることを想定していなかった。

そのことから類推すると、井端に走るつもりがなかったとして、ケース1と3、4は除かれる。ケース2はどうだろうか。一塁走者にだけ、積極的でリスクの高いサインを出すことがあるだろうか。たとえ、1塁走者が同点の走者で、かつ封殺を防ぐという目的があったとしても。考えにくいことだ。消去法で、残るのはケース5である。いろいろなミスがこの中には含まれていて、それだけに可能性も十分に高いと考えている。

本来なら重盗はありえないこの場面であえて重盗をするというのなら、「走れたら走れ」という曖昧なサインはありえない。イチかバチかという作戦をとるにしても、ベンチがそんな初歩的な過ちを犯すとは考えにくい。何らかのコミュニケーションギャップが生じて、連鎖的に内川のミスを誘った可能性が高い。だとすれば、「内川痛恨 走塁ミス」という新聞の見出しはちょっと酷な気がする。

このシーンについては、続情報がほとんどない。日本チームが帰国して、オープン戦で調整し、12日後の3月29日にはペナントレースが開幕した。選手たちの頭の中はもうWBCのことを忘れ去ったかのようにも見える。本当のところは、内川や井端、ベンチに聞いてみなければわからない。だが、おそらく関係者は、これからも帰国時の空港での記者会見以上の詳細を明かすことはないのではないかと思う。

WBCは、また3年後に開催される。次に再び優勝を目指すためには、辛いことではあるがこの反省を抜きには考えられない。簡単に忘れてはいけない、と思う。桑田真澄氏の言葉を借りよう。「日本の野球はペナントレースを盛り上げるだけではもうダメなんです。WBCで勝つこと、日本代表というチームを本気で強化することは、時代が要求していることだと思います」(Number3/30臨時増刊号)。
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by hasiru123 | 2013-04-01 18:55 | その他
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