2013年 06月 16日
「生命」の輝きと躍動感
なぜこの時期に東北なのか。プライス氏はインタビューで「2011年3月に起きた震災による被害があまりにも衝撃的だったので、悲しみを和らげるものをお見せしたい」(多言語ウェブサイト・ニッポンドットコム)と語っている。若冲の個人コレクションは、7年前に東京国立博物館等で公開されたことがあるが、これだけ多彩な絵画を見られる機会は今後そうないだろう。
1センチ平方のマス目が8万6000個以上もある。その上に数多くの動植物と霊獣が描かれている。動物や鳥たちが一緒になって歌い、オーケストラを奏でているかのようである。気の遠くなるほど多数のモザイクでできた不思議な屏風だ。伊藤若冲の描いた「鳥獣花木図屏風」である。
六曲一双の屏風だが、一つ一つのマス目に目を凝らすと、ひとつの中でも細かく描かれている。それでいて全体が見事に調和がとれている。まるでコンピュータで計算されつくしたかのようだ。想像を絶するくらいの時間と試行錯誤が繰り返されたであろうことが推察される。
若冲の生きた江戸時代中期としては珍しい動物や、空想上の霊獣が面白い。若冲は仏教に通暁していたと言われる。草木や国土のように心を持たないものでさえ、みんな仏性があるから、成仏するという考えを身につけていたそうだ。この絵には、若冲のそんな考え方が色濃く反映され、「生命」の輝きと躍動感に満ちているように思えてくる。もっと時間をかけて、繰り返し観たい作品である。
(写真)岩手県立美術館