箱根駅伝のビリーフ

カウンセリング心理学の泰斗である国分康孝さんの書いた「自己発見の心理学」(講談社現代新書)によると、悩みが深くなるのは、その悩みに対して正しく考えていないからだという。

カウンセリング心理学に「論理療法」というのがある。そこでは、人生哲学の核心をなすのは「ビリーフ」だと考える。ある事象Aそのものが苦悩Cを生むわけではなく、その事象を解釈するビリーフBが苦悩の原因になるのだ、と。私は、次のように理解した。

イ 事象A「自分にトラックのスピードがない」 → 苦悩C「自分は長距離選手として失格である」
ロ 事象A「自分にトラックのスピードがない」 → B「スピードがない選手は長距離選手として失格である」 → 苦悩C「自分は長距離選手として失格である」

私たちは日常的にイのようなプロセスの考え方を刷り込まれて生きているように思う。ロのBにあるようなビリーフは意識されずに心の中に潜んでいるために、気がつかない。そこで、それをあえて意識化して、ロのBを「スピードがあるにこしたことはないが、長距離選手としての実力を測るのはスピードだけではない」という、より現実的で前向きなビリーフに修正してみてはどうだろうか。その選手はあまりスピードがないということだけで、短絡的に自分は長距離選手として失格だと思いこむことはなくなるはずだ。

駅伝を占うときにいつも参考にするのは、選手の過去1年間のトラックやロードレースの実績である。具体的には、5000mで13分台、1万mで28分以内、ハーフマラソン63分以内の選手がそれぞれ何名いるかである。5000mと1万mではスピード力を、ハーフマラソンでは持久力を見る。選手個人の性格や練習内容、調整具合などを知る立場にないので、予測の方程式にそれらのデータを代入して済ませてしまう。

第90回箱根駅伝。近年になくトラックのスピードランナーが集結した。というのは、すべての大学に1万m28分台の記録を持った選手がいて、5000m13分台が42名、1万mで28分以内が66名もいるからである。チーム別にみると、最もスピードドランナーが多い明治大は5000m13分台が10名、1万m28分台が6名で、優勝候補の筆頭に挙げられていた駒沢大はそれぞれ5名、6名、早稲田大には学生屈指のスピードを誇る大迫傑がいて、・・・といった具合である。このような素晴らしい実績を持った選手たちを中心に編成されたチームはさぞかし、強いことだろう。まさに、夢の競演である。

しかし、今年の箱根駅伝を見て、この発想がいかに脆弱であるかを思い知らされた。単純に、トラックの実績に補助線を引いただけでは戦況を読むことができなかったからである。平均で約21.7キロメートルある各区間の距離に対応できなかったスピードランナーが少なからずいたことや、想定された位置(順位)でタスキをもらえなかったときに、浮足立つことなく力を発揮できる選手とそうでない選手がいたことだ。ここで大切なのは、長距離選手の心のビリーフである。

総合優勝した東洋大は、設楽兄弟をはじめとするエースが揃っていたことに加えて、背中を押してくれたビリーフがあった。その名は「勇気」。駒沢大を引き離したあとも、選手たちは守りに入ることなく、積極果敢に前半からハイペースを刻んだ。これまでの優勝チームのセオリーにはなかった戦法である。

選手たちには、事象を解釈するビリーフBがたくさんあって、その集合がレースの結果を決める。そのビリーフは監督にもわからない。
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by hasiru123 | 2014-01-03 23:21 | 駅伝  

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