プレッシャーを幸福な気分に変える

江國香織さんの「支度」と題したエッセイに、「かなり幸福だ、と思う時間に、出かける支度をしている時間、がある」というくだりがある。

着るものを選び、身に着け、その間に鞄や靴を頭の中で決め、その日の予定に思いをめぐらせ、電車に乗ったり喫茶店で人を待ったりするようなら本をもっていかなくてはと考え、本の入る鞄でなくてはと考え、香水を選んでふきつけ、化粧をし、同時にその日に会う人の顔を思い浮かべ、・・・と、さらに8行ほど続いて、準備完了、となる。

「夜ごはんの約束のために夕方支度をしている、という状況はとりわけ幸福だ」。そして、「おもしろいのは、時間に追われることが大事だという点だ」とも書いている。

こうした経験は、だれにでもきっと、ある。若いときだったら、スキーに行くときの支度や、登山をするための準備などは、この気分にぴったりである。先に、何か面白そうなことが待っていれば、そのための支度はとるにたらないものであれ、忙しいことであれ、幸福感に満ちている。

支度に時間を費やすことを意図的に利用する手もある。

たとえば、マラソン大会の出場を翌日に控えて、遠征先へ持っていく荷物を確認するときだ。

移動に交通機関を使う場合の本は何を持っていこうか、夕食時に飲むビールは何にしようか、そもそもビールはやめておこうか、宿泊先でゆっくり休むにはどんなナイトウエアがいいだろうか(備え付けの浴衣は脚が開けて安眠を妨げるので)、朝食は何時にしようか、朝食後にトイレを快適に済ませるためにはどんなものを食べたり飲んだりすればいいか、ウォーミングアップ前にお腹にはどんな軽食を入れたらいいか、スペシャルドリンクには何を使おうか、などを検討する。さらに、ウォーミングアップ時とスタート前、ゴール後の着替えを決め、宿泊先から会場までの交通手段を調べる、当日の起床からスタートまでのToDoリストのようなものを作り、最後に前日までの仕上がりからどんなレースをしたいか方針を決め、5キロごとのラップを設定し、ウォッチに記憶させる。

これらの支度をだらだらと進めてはだめで、ある程度てきぱきと行う。「ある程度」というのが肝である。また、細部にわたる検討は必要だが、ち密な計画はやめたい。あくまでも、支度を楽しむ心のゆとりが必要だ。このことによって、レース前のプレッシャーを幸福な気分に変えることができるからだ。

エッセイの著者は、こう締めくくっている。「この場合、ある種のあわただしさが、決めてなのだ」。


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by hasiru123 | 2017-06-06 06:30 | マラソン