マラソンの記録の規格化が拓く新しい世界 - ランニング学会から

日本におけるマラソンのオリンピック代表選考は、もつれるケースが何度かありました。マラソンはもともと気象条件やコースの起伏、出場選手の競合状況などによって記録が左右されやすいからです。そもそも、異なる大会の記録から選考することに無理があるのです。

最近では、アテネオリンピックの代表選考をめぐる混乱が記憶に新しいところです。混乱の原因は、野口みずき選手が前年に代表が内定し、残りの二つの枠を三つの選考会から決めることになったからだです。そこに、過去の実績では第一人者の高橋尚子選手が、東京国際で予想に反して2位となり、迷走の引き金となりました。このほど、マラソンの代表選考をもっとわかりやすく、公平にできないかというマラソンファンの願いに期待を持たせる意欲的な取り組みに接することができました。

「ブラックボックス法」という手法で、東京大学大学院の池上孝則さんが去る3月26日に行われたランニング学会で発表したものです。特定の大会の記録(実走タイム)を、持ちタイムの補正タイムに変換して記録を規格化するものです。マラソンの記録に統計学上、運動生理学上の新たなモデルを付帯的に導入し、アルゴリズムに組み込むことにより、大会出場選手数、性別、制限時間等の差異にかかわらず妥当性・整合性を持たせた数値変換のしくみだそうです。

池上さんは、この手段を用いると次のような変化をもたらすだろうと予想します。

(1)代表選考は、実走タイムあるいは順位重視から補正タイム重視へと変化し、不透明な選考がなくなる
(2)レース条件下でベストを尽くせば適正な評価を得られるので、難コースや夏季の大会にも代表選考会として積極的に挑戦できる。また、大会コースは無理に高速化を図る必要がなくなるため、自然環境を生かしたコース設定ができる
(3)補正タイムから正確に実力を把握できるので、練習内容や目標を合理的に設定できるので、自立したアスリートの育成に役立つ
(4)環境指数と影響要因の因果関係を解析できる

このような補正タイムのしくみが普及すると、世界各地で開催されたマラソン大会の結果が同一大会の結果として比較できて、世界の市民が連帯し、やがて社会へ貢献する存在へと進化するだろう、と。

つい先ごろも、東京国際マラソン(2月12日)で強風のため記録的な期待が裏切られることがありました。また、京荒川市民マラソン(3月19日)では、台風並みの強風が吹き荒れて、参加者の記録的な願いを打ち砕きました。このような厳しい気象条件下でも、記録が適正な評価を受けるとなれば、いやがうえにもモチベーションは高くなると思います。

いきなり全面採用とはいかないかもしれませんが、来る北京五輪の代表選考会では、補正的に参考データとして使ってみてはいかがしょうか。日本もさることながら、強豪選手を多くもつエチオピアやケニヤでこそ、使用する価値が高いのではないだろうか思います。

池上さんの博士論文は「移動ロボットの自律走行に関する研究」だそうですが、このような取り組みが、陸上競技の専門家ではない工学研究者から発想されたことに驚きと新鮮さを感じました。機会を改めて、詳細の内容が公開されることを期待しています。
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by hasiru123 | 2006-04-16 22:18 | その他  

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