夢のマラソン

少し空気を入れ換えては - 箱根駅伝で起きたこと

今年の箱根駅伝は、駒大の終盤(8区、9区)の粘りで、逆転優勝をもぎ取った。早大も、弱いといわれていた山登り(5区)を克服して2位に入った。

一方、両校の活躍の裏には、3校が途中棄権するという異常事態が発生した。複数校の棄権は96年の2校というケースがあった。前年優勝校が翌年の大会で途中棄権したのは、これも96年の山梨学院大以来のことだ。

今回途中棄権したのは、往路の順大と復路の大東大、東海大。順大と大東大は脱水症状が直接の原因で、東海大は10区の踏切で線路をまたいだ際の捻挫が原因だ。順大は一昨年の大会でも、トップでタスキを受けた9区で選手が脱水症状になり、4位に下がっている。

脱水症状は、調整不足や気象コンディションからだけでなく、過度の精神的なストレスからも起こるといわれている。箱根駅伝の沿道では、延々と多くの応援するファンの波が続く。選手として送り出してくれた母校はもとより、ふるさとの家族、友人、出身校などの熱心な応援は重圧となってのしかかってくる。そういった中で、心身のバランスを崩してしまう選手は多いのではないだろうか。平常心で走れ、というのは無理からぬことだと思う。

ニッポンランナーズ理事長の金哲彦さんはアクシデント対策について、2年前の箱根駅伝が終わった直後の毎日新聞コラム「金曜カフェ」の中でこう書いている。「トレーニングの質と量が飛躍的に高度化している昨今、身体を鍛えるトレーニング以外にも、ストレスマネジメントを戦略のひとつとして取り入れる必要性が、真剣に議論される時代になるかもしれない」。2年前に起きたアクシデントがまた繰り返された。今こそ、この悲劇からしっかり学習する必要があるのではないか。

新聞各紙から拾った関係者のコメントはこうだ。「勝利至上ではなく、もっときめ細かく選手を育てるべきだ」(関東学連の青葉昌幸会長)。「原因を調査して突き止めないと、箱根駅伝が世間から信用されなくなる」(沢木啓祐顧問)。「どのチームもギリギリのところでトレーニングをやっている。その中での体調管理の難しさがある」(大東大の只隈伸也監督)。

問題は、トレーニングの技術的なことや精神論的なことではなく、選手の心理的な側面ににかかわる思われるだけに、各方面の専門家たちの力を借りて、長い目で見た改善プログラムを作ることが必要だ。これは私見だが、どうも選手を取り囲む空気が息苦しくなっているのではないかと思う。重たい一酸化炭素が部屋の下部に滞っているようだ。気持ちを軽くするために、少し空気を入れ換えてはどうだろうか。

途中棄権といった「暗」の部分が強調されがちだが、学連選抜が総合4位に食い込んだり、中央学院大が予選会組から3位入賞するなどの「明」の部分も見られた。中でも学連選抜の活躍には目を見張るものがあった。かつて、私は小ブログの中で、学連選抜方式について「選抜チームではモチベーションが上がらない。力のある選手でも、「なんとしてもチームのためにがんばる」という粘り強さにかけるため、力を発揮できていない」(2005年2月7日)と書いて、選手のモチベーションを向上させることにはならないのではないかと疑問を投げかけたことがあった。

前回から、学連選抜の記録が正式計時され、10位以内に入った場合には、翌年は予選会からの出場枠が1増えるように制度改正が図られた。その効果が発揮されたのだろうか、各選手とも好位置をキープするがんばりを見せた。他校のようにプレッシャーを受けずに、のびのびと走れたのも躍進の一因かもしれない。私の疑問は杞憂に終わったようだ。

関東学連のようにのびのびと走れる雰囲気がもっと広がれば、各校の選手たちのプレッシャーも少しは解消されるのではないかと思う。言うは易しだが、何かいい解決策はないものだろうか。その意味では、いろいろと選考方法を試験的に取り入れてみるといい。

例えば、選抜高校野球では「21世紀枠」という制度があって、秋季都道府県大会ベスト8以上(参加校数が128校以上の9都道府県はベスト16以上)の学校から、困難な条件の克服など戦力以外の特色を加味して選考する方法がある。箱根駅伝だったら、予選会をクリアできなかったけれど、一定の成績を収めたチームの中から特色ある学校を選抜するのだ。少ないメンバーでチームを編成して善戦したとか、毎年のように上位を伺う成績を出してはいるが一歩及ばす予選通過がならなかったなど、順位だけにこだわらない特色あるチームを発掘して箱根駅伝に送り込むのも面白い。

かつての伝統校に偏ったり、方法でトラブルが生じたりするなどの選考をめぐる弊害も出てくるかもしれない。本大会に出場してもいつも下位に低迷していたりするなど、レースの足を引っ張ることも心配される。問題があれば、必要に応じて修正していけばいい。「勝利至上主義」という重苦しい雰囲気に風穴をあけ、箱根駅伝の本来のねらいである学生ランナーの強化・育成に立ち戻ることが目的だ。
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by hasiru123 | 2008-01-07 07:16 | 駅伝
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