夢のマラソン

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海の中道

肉体への憎しみ (ちくま文庫)

虫明 亜呂無 / 筑摩書房


大相撲九州場所(福岡国際センター)が終わると、翌週の日曜日には福岡国際マラソンが開催される。今回で第63回を迎え、わが国で最も歴史のある大会である。参加資格は、平和台陸上競技場からスタートするAグループで、マラソンが2時間27分以内の実績が求められる。かつては2時間26分以内というときもあったが、現在でも一番資格要件が厳しい大会である。国際的にみても、五輪と世界選手権を除けばこの条件を超える大会はないのではないかと思う。

今回は、昨年大会記録で優勝したツェガエ・ケベデ(エチオピア)が出場の予定だ。昨年の記録を11秒短縮すると2時間5分台に突入する。国内選手が彼のスピードにどこまでついていくことができるか、注目したい。

その福岡国際マラソンは、福岡市の主要な市街地を回るコースで、例年沿道の応援が多い。第11回から第38回までは、平和台陸上競技場~雁ノ巣折り返しのコースで長い間親しまれてきた。このコースは海風の影響を受けやすいことから、第39回より海の中道の部分をカットし、市の南西部の市街地を周回するコースに変更されて、現在にいたっている。

この旧コースを舞台にした作品に「海の中道」(『肉体への憎しみ』所収)がある。虫明亜呂無の描いた短編小説だ。一流ランナーになれなかった選手と一流コーチになり損ねた指導者との出会いから別れまでの物語を、42.195キロのレースの中に収めたもので、味わいのある作品となっている。舞台は、ミュンヘン五輪が終わったばかりの福岡国際マラソン。フランク・ショーター(米国)が同大会で4連勝したころである。

厳冬を思わす氷雨の悪コンディションの中、主人公の氏家(選手)は先頭集団につき、彼を指導する「私」は先頭集団の後方を伴走する車の座席から彼の力走を見ている。途中のコースに点在する街の様子と生活の描写、これまでの師弟間の交流、そしてレースの展開から進行する肉体の変化などを織り交ぜながら、語られる。読んでいて、まるで自分が選手として先頭集団にいるような感覚、あるいは伴走車の窓から選手に声をかけているようなに錯覚に襲われる。一流の選手やコーチの経験が全くなくても、この舞台の中にすんなり入り込める魔力のようなものがこの作品にはある。

20キロ地点での挿入に、「私」が氏家に、マラソンに勝つ要諦を語る件(くだり)がある。

「スパートのかけあいが、これである。
抜きつ、抜かれつするのではない。
むしろ、自分のリズムに敏感に嫌悪感をみせた対手が、思わず、かっ!となって自分を見失う。リズムの乱気流にまきこまれてゆく。相手をそうさせるのが、マラソンでは勝利への第一歩の踏み出しとなる」

スポーツを通して人間や人生を描くのではなく、スポーツをしている人間の動きからとらえた発見が描かれていて、新鮮だ。虫明亜呂無がスポーツについてものした作品は多いが、ランニングについては意外と少ない。このほかに、人見絹枝がプラハで歓迎されたエピソードを題材としたノンフィクションで「大理石の碑」(『虫明亜呂無の本・2 野を駈ける光』所収)がある。
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by hasiru123 | 2009-11-29 19:09 |

骨体操をストレッチに取り入れる

「捻らない」「うねらない」「踏ん張らない」という「ナンバ的な動き」については、『ナンバの身体論』(光文社新書)の紹介の中で書いたことがある(2005年2月27日)。その「ナンバ的な動き」は、陸上競技を始めとする各種競技に取り入れられ、効果を上げている。

ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する

矢野 龍彦 金田 伸夫 長谷川 智 古谷 一郎光文社


たとえば元巨人の桑田真澄氏は、年齢からくる筋力の衰えや肘の故障もあって、投げられない時期があった。そのとき、武術研究者の甲野善紀に師事して「ナンバ的な動き」を身につけ、その翌年に見事復活を果たし、34歳にして2桁勝利と最優秀防御率を獲得した。

そういわれてもピンとこないかもしれないが、右投げの投手が1塁走者を牽制する時を想像してみるとわかりやすい。投手は、投球動作にはいるとき、3塁方向を向いている。投げる直前に捕手から1塁を牽制するサインがでると、3塁方向を向いたまま身体を1塁方向に回転させながら捻って、1塁へ投球する。俊敏な動作であったとしても、どうしてもモーションが大きくなって、1塁ランナーから見ると「投げるぞ」という予告をされるようなものである。体幹を捻らずに、身体の上面を折りたたむようなフォームで股関節を1塁方向に回旋させるだけで投げられれば、時間ロスが少なくなって、走者に読まれにくくなる。

このような投球動作を会得したことで、桑田投手の牽制球術は向上し、結果として失点を抑えることができた。この後も、4年間巨人のユニフォームを着続けた。

「ナンバ的な動き」とは、骨盤や肋骨を瞬時に平行四辺形に変形させる身体の使い方だ。一見難しそうな動きだが、甲野氏は「小魚の群が一斉に方向転換する」という表現で、「踏ん張り」や「うねり」をなくし、相手に悟られずに動くことだと、やさしく解説している。

私もこの説明で一応はわかったつもりではあるが、それでも「理解すること」と「実行すること」との差は大きい。走ることにおいては、子供の時から慣れ親しんだ左右交互のいわゆる「西洋式」走法から抜け出せないでいる。腕をしっかり振って、同時に反対側の足を強く前へけり出すという「捻り」をきかした走り方が染みついているからだ。

無理してランニングの中で「ナンバ的な動き」を入れると、かえってフォームのバランスを崩すことになりかねない。それが故障のトリガーになるということもありうることだ。したがって、まずは体幹がしっかり平行四辺形の原理で動くように、日頃行うストレッチの中にナンバ的な動きを取り入れて、身体を慣らすことから始めることにした。

だから、走る前と後に行う私のストレッチには、ナンバ式骨体操がいたるところに散りばめられている。そもそも筋肉を伸ばすことが主目的のストレッチと骨をたたむことを主眼にするナンバ式骨体操とは発想が異なるが、今のところ違和感はない。むしろ、両立できていると言った方が正確かもしれない。骨体操ができるようになったら、ナンバ歩きへと歩を進めたい。めざすゴールは、自然に「ナンバ走り」ができるようになることだ。
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by hasiru123 | 2009-11-22 22:58 | 練習

長距離種目における大学の地域差について

10月25日に全日本大学女子駅伝が、そして11月1日には全日本大学駅伝(男子)が行われた。男女の上位校を地域別に見た顔ぶれは対称的である。男子の上位9校が関東勢であるのに対し、女子の上位3校は関東以外だからだ。

その特徴をさらに詳しく見るために全日本インカレの長距離種目で入賞した選手数と総合上位の学校数で地域差を比較すると、以下のようになった。

<1500m、5000m、10000mの(のべ)入賞者数>
       関東  関東以外
男子長距離  19    5
女子長距離   5   19

<総合得点で8位以内に入った学校数>
       関東  関東以外
男子総合    6    2
女子総合    4    4

長距離男子は関東に一極集中しているのに対して、女子は西高東低で、まったく反対の傾向が見られる。トラックとフィールドを含めた陸上競技全体ではどうかというと、男子は関東が優勢だが長距離ほどのアドバンテージはない。女子は、ほぼ互角といったところ。関東に学校が集中していることを考慮すると、女子のこの結果ややや意外な感じがする。

関東に多くの大学が集中しているのは周知のことだが、この男女差は何によるのだろうか。男子の長距離で関東が強いのは箱根駅伝効果として納得できるのだが、女子は関東以外の地域、特に関西が強い。具体的な学校名を挙げると、長距離では立命館大と佛教大だ。そして、名古屋の名城大も頑張っている。

男子長距離の場合は、実力のある選手は高校を卒業するとまず関東の大学に入って箱根を走る。大学で、一定の成果を出せたなら、実業団に進むという流れができあがっているようだ。女子の場合は、力のある選手は大学へ進学せずに実業団に入るケースが多い。実業団の強豪チームが集中する関東の高校生たちは、特にその傾向が強い。したがって、関東の大学は学校数が多いこともあって、走力のある選手が分散し、選手層がどうしもも薄くなる。したがって、関東以外の大学との差異化を図ることができずに、強豪選手が集中する立命館大や佛教大などに及ばない。

インカレという大学対抗戦の視点からみると、実力校が関東に集中しない女子長距離や、男女短距離、男女フィールド種目の方が全国大会の名にふさわしい戦いが見られて興味深い。学生のレベルを引き上げる点においても、全国規模で競う方が利点がより多いのではないだろうか。

箱根駅伝という歴史とイベントの大きさが、学生陸上競技の姿を映し出していることは間違いない。これがいいとかいけないとかではなく、この地域差は果たして選手たちの成長にどうかかわるのだろうか。上表の数字を見ながら、考えたことである。
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by hasiru123 | 2009-11-15 23:38 | 駅伝

全国高校駅伝埼玉県予選

全国高校駅伝の予選会がたけなわである。埼玉県では、11月6日(金)に熊谷公園陸上競技場を発着点とする周回コースで行われた。昨年までは松山高校-森林公園周辺コースだったが、今年から会場が変わった。

男子は、武蔵越生埼玉栄の16連覇を阻んで初優勝を果たした。今年のインターハイの予選会から本選に至るまでの戦績から、武蔵越生はかなりいけると思っていたが、現実のものとなった。

埼玉栄も昨年の全国大会に出場したメンバーが4名残っていて、今年の9月末に5000mで13分54秒というすばらしい記録で県高校記録を更新した服部翔大選手を擁し、ゴールのタイム差は18秒だった。また、3位に入った東農大三も2位との差は11秒という、大接戦だった。

毎年全国大会に出場している埼玉栄は、力のある選手を擁しながらも最近は優勝争いに加わることができなかった。これまで予選会では独走状態で、しのぎを削って勝利をもぎ取るという勝負所がなかった。サバイバルレースを経験して全国大会に臨めたならば、もう少し違う展開に持ち込めたかもしれない。その意味では、上位校が切磋琢磨することは、埼玉県の長距離陣のレベルを引き上げるのにいい刺激になるのではないかと思う。

優勝校は、12月20日に京都市で開催される全国大会に出場する。また、上位6校は11月21日の関東大会に出場でき、今年は60回記念大会なので、各県の優勝校を除くチームの中で1位に入れれば、全国大会に出場することができる。埼玉栄と東農大三にも京都へ行けるチャンスは大いにある。予選会で演じた接戦の勢いを都大路で見せてもらいたいものだ。

今回の大会では、1区(10キロ)で区間賞を獲得した設楽啓太選手(武蔵越生)の29分35秒はみごとであった。今秋の国体10000m4位の実績を持つが、全国大会での走りが楽しみである。

設楽選手を始めとする高校のトップクラスは、5000mは13分台、10000mは28分台で走る。5000mを14分前半の選手で固めないと全国大会で上位に食い込めない。この選手たちは、大学の一流選手と遜色のない実力を持っているといっていい。

このような目覚ましい高校生ランナーのスピード化は、駅伝の強豪校で顕著である。高校駅伝の果たす役割が大きいといえるだろう。そして、ケニヤの留学生といっしょに走ることで、高い目標を持つようになったことも奏功している。高校卒業後もさらに伸び代を大きくして、世界のトップを目指してほしいと期待しながら、12月の高校駅伝のテレビ中継を見ることにしよう。
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by hasiru123 | 2009-11-08 19:54 | 駅伝

練習結果よりも本番をベストコンディションに持っていく

「11月上旬ともなると、そろそろマラソンの走り込みを終えて最終調整に入るところである」と書くはずだった。ところが、走り込みの大切な時期に長距離走を組み込む時間が思うようにとれなかった。苦しい練習を一度も行うことなくマラソンを走ることは無謀と考え、予定していた大田原マラソン(11月23日開催)への出場を9月中旬に断念した。

久しぶりのフルマラソンになるので、練習の助走期間を長めにとろうと7月から準備を開始してきたが、残念である。

したがって、ここでは自分が大田原マラソンを走るとしたらレースの3週間前にはどんなことに注意するだろうか、ということについて書いてみたい。

9月から10月にかけては、なにはともあれ42.195キロを走りきるためのスタミナ作りに専念すると思う。LSDや持久走の距離、時間を徐々に長くする。そして、距離に自信がついてきたら、レースより少し余裕のあるペース配分で20キロから30キロを走り、この距離も少しずつ伸ばしていく。最後には、40キロをある程度の余裕を残して走れるようにもっていく。

走力がアップしてきたかどうかは、これまでの経験とすり合わせをしながら、日頃の練習である程度は知ることができる。しかし、気持ちとしては具体的な数字を見て納得したい。そこで、行うのが30キロから40キロの試走だ。30キロならほぼレースペースで、40キロならレースより幾分遅めのペースで走ってみる。設定タイムどおりに走れたか、余裕はあったか、体調に何か変化はなかったか、などが仕上がり具合をチェックする重要な指標となる。

ここで注意したいのは、この結果を冷静に分析するとともに、数値に一喜一憂しないことである。何度かマラソンを走ってくると、いやがうえにも過去の実績や練習結果との比較をしたくなる。満足な結果が得られればいいが、思わしくない結果が出ることもある。そのことによって、ともすれば落ち込んで、自身を喪失したりすることになりかねない。いわゆる「スランプ」である。

スランプは、一生懸命に練習した人にだけが経験する状態である。苦しい練習をしてこなかった人は絶対にスランプに陥ることはない。だから、結果として設定タイムを大幅に下回ってしまったとしても、何ら気にすることはない。極論を言うと、レースまで調子が悪くても、レース当日に最上のコンディションで迎えればいいのである。レース前の練習がいくら好調でも、本番で力を出せないということはよくあることだ。

走り込みの終盤で不調だったということはむしろいいシグナルで、本番に向けて上向く可能性が高い、と考えたい。あくまでも最終ゴールは、42.195キロを走りきってゴールテープを切るときである。
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by hasiru123 | 2009-11-01 23:33 | 練習