夢のマラソン

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選手宣誓と自己本位

漱石文明論集 (岩波文庫)

夏目 漱石 / 岩波書店


「生かされている命に感謝して、全身全霊を込めてプレーすることを誓います」。

創志学園・野山慎介主将の選手宣誓は、この一言で締めくくった。ていねいで素直な言葉が印象に残る1分58秒だった。

これまでの選手宣誓は、早口のため聞き取りにくく、定型的な言葉が目立ったが、この日ものは聞く人の心に深く刻まれたのではなかったろうか。これを聞いて、先ごろ読んだ夏目漱石の「私の個人主義」(岩波文庫『漱石文明論集』)という講演を思い出した。

漱石は、ロンドン留学中に、精神的に追い込まれて悩む。日本人は西洋に追いつき追い越そうと頑張ってきたが、それはまるで外国人の猿まねで、インチキではないかと。その中で漱石は、「自己本位」ということを発見する。これは、自分さえよければ他人はどうなってもいい、という意味ではない。

「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼らの何者ぞやと気概が出ました。今まで茫然(ぼうぜん)と自失していた私に、此処(ここ)に立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自我本位の四字なのであります」

この四字によって、「著書その他の手段によって、それを成就するのを私の生涯の事業としよう」と決意する。「ああ此処(ここ)におれの進むべき道があった! 漸(ようや)く掘り当てた! こういう感投詞を心の底から叫びだされる時、あなたがたは初めて心を安んずる事ができるのでしょう」と、聴衆(学習院大学の学生たち)に、自信に満ちた叫びをあげたときのことを語りかけている。

漱石は「自己本位」で、作家として身を立てることを心に決めたが、人の心に響く言葉というのはこの「自己本位」によるところが大きいのではないか。先の宣誓文は、監督や野球部長らとの推敲のうえに出来上がったものだそうだが、思いは十分に伝わってきた。
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by hasiru123 | 2011-03-27 23:35 |

猪瀬直樹著『突破する力』を読む

突破する力 (青春新書インテリジェンス)

猪瀬 直樹 / 青春出版社


目の前に立ちはだかる”壁”を越えようとして戦うことを専門にしている競技がある。それは、陸上競技でいえば走り高跳びや棒高跳びに代表されるフィールド競技である。

同じフィールド競技でも、走り幅跳びなどは目に見える壁はなく、ひたすら先へと大きく飛び、その距離を競う。100m走などのトラック競技も、距離と時間との違いはあるものの、同じ性質の競技といえる。

話を戻すと、走り高跳びなどはバーの高さを越えられると考えるか、そうでないかでほぼ勝負が決するといって差支えない。たった1cmの壁がなかなかクリアできなくて、バーを落とすシーンは多い。心理的なバリアーを払拭して臨まなくてはならないという点で、難しい競技だと思う。

人が生きていくうえで、このような壁は数限りある。若い人たちが将来に向かって明るい展望が描けないという声が聞こえるなかで、東京都副知事の猪瀬直樹氏が書いたのが本書である。

各章に共通して聞こえてくるのは、これまでに体験したさまざまな世間の”壁”(=逆境)を跳ね返すための応援歌だ。希望は「ある種の孤独を抱え、徹底的に仕事と対峙した先に、ようやく見えてくる」。

どうすれば自分の(相手に負けない)武器が身につけられるのか。「それは、意外にも自分の弱点の中にヒントが隠されてい」るという。著者は子供のころから朝が苦手で、寝起きが悪かった。夜になると目が冴えてきて、頭もスッキリする。この弱点は、作家にとっては好都合で、夜に執筆できることから、いまでは最大の強みとなっている。このような弱みやコンプレックスにこそ、自分を強くする芽が潜んでいる、と書く。

「孤独を友として仕事と向き合った時間は、けっして自分を裏切らない。ギリギリまで自分を追い込めば仕事力が磨かれて、それが閉そく状況を打ち破る武器になる」として、出来合いの希望を捨てて、自分の手で希望をつくろうと呼びかける。

私は、走り高跳びは難しい競技だとはじめから決め込んでいたが、たとえパワーはなくとも集中力に優れる人にとっては、強みとなろう。挑戦する前から及び腰になっている自分に、はたと気がついた。
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by hasiru123 | 2011-03-20 22:59 |

がんばれ!ランナーズ

今日、出場を予定していた日高かわせみマラソンが中止となった。また、世界陸上の代表選考会を兼ねて開かれる予定だった名古屋国際女子マラソンが中止された。

当面は、開催予定の大きな大会は中止に追い込まれる可能性が高い。走る身としては、一時的ではあるにせよ目標を失いかねない。だが、ここはランナーの精神的な強さ、底力の見せ所である。早く気持ちを切り替えると共に、体調管理にはふだん以上の気配りが必要だ。

体調の不良を押しての無理は禁物だが、最低ジョグだけでも行って、調子の維持を図りたい。
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by hasiru123 | 2011-03-13 23:55 | 練習

東日本大地震

東日本大地震が起きたその日、私は東久留米市にある職場から川越市まで徒歩で帰宅した。家族と電話がつながらなかったため、安否を確かめるにはいち早く家へ帰ることしかないと思ったからだ。

距離はおよそ27キロでなので、3,4時間で帰ることができると予想したが、実際は5時間かかった。東久留米駅から清瀬駅までは経路が複雑で何度か軌道修正しながら、そして途中から線路を歩いた。電車の復旧見通しが全く立っていないので、後ろから電車が来るはずがないのに、電車に引かれるのではないかという恐怖心がつきまとう。

志木街道に入ってからの経路はよくわかっていたので、あとはひたすら歩くのみ。職場を出たのが午後6時半ころで、陽はすでに落ちていた。

野火止め交差点から川越街道へ入ると、歩道を行き交う人が多いことに気がついた。池袋方面から来た人が多かったが、川越方面から池袋方面に向かう人もかなりいた。車は両方面とも大渋滞だ。

この時期としては寒い夜だったが、道行く帰宅者たちの表情は意外に明るかった。仕方なく歩いているというようには見えない。この地域は、特に道路が陥没していたり、橋が落下していたりという被害がなかったためであろう。職場の同僚と思われる男性グループや女性同士が語らいながら歩く姿があった。おしなべて、早歩きの健脚で、若い。

何よりも、歩いて帰ることができるという幸せに感謝している。通勤難民として、各ターミナルで一夜を明かした方々に思いをいたしながら。

ところが、翌日以降、日を追うにしたがって甚大な被害が発生していることが明らかとなり、この気分も吹っ飛んだ。そして、原発爆発による新たな被害が加わった。備えと、警戒と、そして救援を怠るまい。
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by hasiru123 | 2011-03-13 23:47 | その他

東京とびわ湖毎日から

トンネルの先から光明が射してきた。そんな気持ちを抱かせる二つの男子マラソンだった。

2月27日に行われた東京マラソンでは、実業団に所属しない市民ランナーの川内優輝(埼玉陸協)が2時間8分37秒で日本人トップの3位に入った。今年開かれる世界陸上の日本代表枠は5名だが、これで二人目の代表が決まった。

国内のサブテン(2時間10分以内)ランナーは08年福岡国際以来で、久しぶりの快挙である。埼玉県の住民の一人として、また登録を通じて埼玉陸協の末席を汚す身としても、大変うれしいことだった。

学生時代に箱根駅伝に学連選抜として2度出場しているものの、特定のコーチから指導を受けることなく、もっぱら一人で練習を積んできた。自由に楽しく走ることが、このような素晴らしい記録につながったということは、多くのランナーの励みになろう。

川内の走りからは、これまでのトップランナーにはない力強さを感じた。それは、これまでの経歴が示すように、強豪チームで早期の結果を求められる環境に身をおいてこなかったことに関係がありそうだ。ランナーとしての自主性や自立心を育むうえで、プラスに働いた。これからの、伸び代の大きさを予感させるレースだった。

もう一つの光明は、本日行われたびわ湖毎日マラソンである。

一般参加の堀端宏行(旭化成)が2時間9分25秒で日本人トップの3位に入り、川内に次いで世界陸上の内定となった。30キロ過ぎに併走する今井正人(トヨタ自動車九州)と脚が接触するアクシデントがあって、一時後退したものの、その後よく粘った。長身ということもあってやや粗削りではあるが、そのしなやかなフォームは、これからの成長を期待させるものがある。

トップ争いを演じたウィルソン・キプサング(ケニア)とデリバ・メルガ(エチオピア)のパワーとスピードのデッドヒートに比べると地味ではあるが、苦しみもがきながら追い上げた堀端のねばりは見応えがあった。最後まであきらめないで辛抱すれば結果がついて来るというお手本のようだった。

川内は23歳、堀端は24歳。二人とも20台の前半と、若い。これからの活躍が大いに期待できる。
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by hasiru123 | 2011-03-06 22:01 | マラソン