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夢のマラソン

強すぎるケニアに舌を巻いた。世界陸上初日の27日は、女子マラソンで3位までをケニアが独占し、女子1万メートルでも4位までがケニア勢だった。予想どおりとはいえ、この圧倒的な強さは何によるのだろうか。

マラソンの、30キロまでの5キロごとのスプリットは、17分~18分とゆったりしたペースだった。給水地点近くになると、エチオピア勢が一時的にペースを上げたが、それ以外は大集団でレースが展開された。集団が崩れたのは32キロ過ぎ。あっという間の出来事だった。キプラガトらケニア勢が一気に抜け出した。集団にいた日本の3選手はその変化に対応することができなかった。それでも、赤羽有紀子(ホクレン)が粘って5位で入賞した。

ケニア勢のペース変化に日本人選手が付けなかった理由は、その変化の鋭さにある。瞬間風速ではあるが、一時は1キロ3分10秒くらいまで上がっていた。5キロに換算すると、15分50秒に相当する。まるで、1万メートルの競り合いをしているかのようだ。

それでも、このペースがとてつもなく速いかというと、そうともいえない。というのは、赤羽が終盤追い上げたとき、35キロから40キロにかけての5キロのスプリットは16分31秒だった。過去には、2004年大阪国際女子の30キロ~35キロ地点で、優勝した坂本直子(天満屋)が15分47秒で駆け抜けている例もある。

問題は、ペースの速さではなく、ペース変化の大きさである。30キロをスローペースで走った後の急激な変化。このペースアップに対応できる日本人選手は、今いないのではないか。

今季のケニアのトップ2名の選手が抜けても、この強さ。たしかに、今のケニア勢はとても層が厚い。これまでの女子マラソンの歴史には見られなかった現象だ。

しかし、日本の選手がまったく太刀打ちできないわけではないと思う。2000年のシドニー五輪直前に出した日本人選手の上位3名の記録は、今季世界10傑に入るものだ。かつてない激しい五輪代表争いのうえ切符を手にした高橋尚子は、本番で金メダルに輝いている。ケニア勢の記録が特にいいというわけではない、という点はおさえておく必要がある。

ケニア勢の一角を崩すキーポイントは、高橋のかつての師匠、小出義雄氏が高橋が高地トレーニングを取り入れるに際して、背中を押した次の言葉にあるような気がする。

「非常識なこと(3500メートルあるウインターパークでの練習)をしてこそ限界に挑戦できるんだよな」

このことについて、後に高橋は「型を破るときは案外そんなものかもしれない」と、非常識な練習で絶対の自信を得たことを書いている(日経夕刊2011.8.14からの連載記事「こころの玉手箱」)。
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by hasiru123 | 2011-08-29 00:06 | マラソン

テグ世界陸上を前にして

来週27日から世界陸上が、韓国・テグを舞台に熱い戦いが展開される。初日は、女子マラソンで幕が開く。

男女マラソンは、北京五輪、前回のベルリン世界陸上に続いて、ケニア、エチオピアに勢いがある。男子は、2010年から2011年にかけての世界10傑の中にケニアが7名、エチオピアが2名入っている。女子は男子ほどの集中度ではないが、同様にケニアが4名、エチオピアが3名いる。 

これらのケニア、エチオピアの上位選手がそのまま世界陸上に出場するわけではないが、選手層が厚いため、代替選手にこと欠くことはなく、両国の選手たちがレースを引っ張ることになるだろう。そんな中で、チーム・ジャパンはどんな戦いを挑むだろうか。

男子で注目するのは、選考大会で最も持ちタイムのいい川内優輝(埼玉県庁)だ。県内の定時制高校に勤務するサラリーマン選手だが、選考会では実業団選手を退けて出場権を獲得した。6月に出場した隠岐のウルトラマラソンで熱中症のため途中棄権という失敗もあったが、その後は順調に体力を回復してきていると聞く。気になるのは、7月3日の札幌国際ハーフでは63位とまったく奮わなかったことだ。

しかし、聞くところによるとこれまでの川内は、ロードレースを練習に組み入れて、レースを繰り返しながら照準を合わせてきたという。実業団選手のように気候の冷涼な地で長期合宿を張ったり、力のある選手たちと切磋琢磨して走力を高めていく手法は取れないからだ。だから、休日を利用して練習代わりに積極的に大会に出場して、実践力を身につけていく。これは、ある意味では私たちの周りにいるシリアスな市民ランナーの取り組みに共通するものがある。

本番では、東京マラソンで見せたようなねばりを発揮して、トップグループにくらいついていってほしい。この時期のテグは日本と同様に蒸し暑く、何が起こるかわからない。

女子は、これも選考大会中最も記録の良かった尾崎好美(第一生命)に期待したい。記録もさることながら、前回で2位に入っているのが強みだ。今回は、選考会の横浜国際女子で見せたように、さらに勝負強さに磨きがかかっている。優勝が狙える位置にいることは間違いない。ケニア、エチオピア勢の見えるところで粘れば、勝機がついてくる。

しかし、ここはあまり勝負を意識し過ぎない方がいいだろう。まずはメダルを取って日本人トップに入り、ロンドン五輪の切符を手中に収めることを第一目標にするくらいのほうが成功する可能性が高いと思う。リラックスして、臨んでほしい。

男女とも東アフリカの選手たちに圧倒的なアドバンテージがあるが、日本人選手がその中に割って入る余地は十分にある。「落ち着いて、そして最後まであきらめないで」とエールを送りたい。
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by hasiru123 | 2011-08-21 23:21 | マラソン

帝京ナインに残したもの

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多くの人が、帝京の勝ちを疑わなかっただろう。3対0でリードした9回表の守りで、1アウトの場面だ。八幡商にまさかの逆転負けを喫した。試合後、甲子園で通算51勝した前田三夫監督いわく「これが甲子園か」(8月14日毎日)。

帝京のエース・伊藤拓郎(3年)はこの日、登板することなく、1塁手を務めた。3回戦を考えて温存されたとのことである。前田監督はこの試合の先発投手に2年生の渡辺隆太郎を充てた。

渡辺は、逆転満塁本塁打を打たれた9回表の一球を悔やみ、試合後終始泣き続けた。「3年生がずっとがんばってきたのに、自分が最後に打たれて負けてしまった」「今は何も考えられません」。渡辺君はずっとうつむいた。しかし、8回までは八幡商に二塁を踏ませない好投を続けた。その素晴らしい投球は、4万7千人の大観衆をうならせた。力は十分に発揮し、次の大会につながるマウンドだった。

帝京は、春夏合わせて全国制覇を3度やっていて、今年も優勝候補の一角を占めていた。優勝したい、優勝して当然。そんな気持ちから、ナインが勝ちを意識しすぎたかもしれない。渡辺にとっては、「野球は最後までわからない」ということをいやがうえにも教えられた1球だったにちがいない。勝負には勝ちか負けしかないが、大観衆を前に試合の命運を決定付づける1球を投じることができたことに、選手たちは誇りを持ってほしい。歴史に残る大試合を演じることにめぐり会えたナインは、つくづく幸せだと思う。

そして、勝利にはつながらなかったが、前田監督の「3回戦を考えてエースを温存させた」判断は決して間違っていない。長い不調に苦しんだ伊藤を無理して使わなかった英断を誇っていよい。


(写真)我が家の百日紅。7月中旬から花をつけ始めた。
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by hasiru123 | 2011-08-14 23:41 | その他

インターハイ雑感

インターハイが今年から、これまでの都道府県単位での開催から地域開催へと変更になった。今までにも、複数県での共同開催ということはあったが、原則としては一都道府県で実施してきた。この方式だと、一度開催した県では約50年後にならないと順番が回ってこない計算になる。地域開催であればほぼ12年に1回は回ってくることになり、施設や運営ノウハウが継承されやすいという利点がある。

今年は「北東北総体」ということで、会場を青森、岩手、秋田、宮城の4県に分散して7月28日(木)から行われている。陸上競技は今日が最終日で、5日間の戦いに幕を閉じた。2日目と3日目についてはテレビ中継されたので、BVDに収録したもので観戦した。中長距離種目では、男女の1500mを見ることができた。

特に男子1500mでは、ラストの激しいつばぜり合いは見ごたえがあった。序盤からハイペースで戸田雅稀(東農大二)がリードしていたが、残り300mでスピードで戸田よりも上といわれていた打越雄允(国学院久我山)が前へ出て、そのまま勝敗を決するかに見えた。しかし、戸田が踏ん張り、ゴール寸前で打越をかわした。戸田は、勝敗だけではなく最初の400mを59秒台で引っ張るなど、積極的な走りも光った。これからの成長が楽しみな選手である。

さて、大会主催者から公表された大会結果を見ながら、長距離種目について気のついた点を記してみたい。

第1点は、男子は選手が種目ごとに力のある選手が分散しているのに対し、女子は特定の選手が複数種目に出場し、上位を占める傾向が見られたことである。女子は、1500mと3000mを兼ねて出場した選手が5名いて、そのうち4名が決勝に進出している。4名のうち2名は両種目で入賞している。それに対して男子は、5000mと3000m障害では兼ねて出場した選手が4名で、そして4名とも決勝へ進出していた。両種目での入賞者は1名。5000mともっとも近接していると思われる1500mについては、5000m決勝と1500m決勝を兼ねた選手が2名しかいなかった。両種目での入賞者は1名。また、1500mと3000障害とは兼ねて出場した選手は見当たらなかった。1500mと3000mで距離は近いものの、「障害」というスペシャリティが求められるためかもしれない。

第2点は、学校別に見た中長距離種目(男子は1500mと5000m、3000m障害の3種目で、女子は1500mと3000mの2種目)への出場選手について、どのくらいの集中度があるか、すなわち同一校で合計何名の選手が出場したか、ということである。男子で一番多かったのが世羅(広島)の4名(うち決勝進出者が3名)、続いて九州学院(熊本)が3名(同1名)と続いている。女子は、興譲館(岡山)が5名(同3名)、常盤(群馬)が3名(同2名)、重川(愛知)が3名(同1名)と続く。

一方、全国高校駅伝の直近3年間の成績では、男子は世羅が4位→1位→2位、女子が興譲館が2位→3位→1位で、安定上位を保っている。この結果とインターハイの成績を重ね合わせると、駅伝は今年も男子は世羅が、女子は興譲館を軸にレースが展開されることは間違いないところだろう。ただし、駅伝はエース級のメンバーだけでタスキをつなぐわけではないので、インターハイの記録からは読み取ることができない選手たちの層の厚みがものを言う。大会を占うという意味からは、ここが一番興味深いところだろう。

第3点目は、私の住む埼玉県勢はあまり奮わなかったことだ。女子が、1500mで13位、3000mで17位に入ったものの(いずれも小林美貴(伊奈学園総合))、男子の決勝進出者はゼロだった。 男女とも、今後の駅伝シーズンに向けて、しっかり走力を磨いてほしいと願っている。

最後に、中長距離種目ではないが、女子で、埼玉栄が2位以下に大差をつけて総合優勝を果たした。19回目の優勝だそうである。「あっぱれ!」マークを二つあげたい。また、女子400mでは島田愛弓(東農大三)が54秒88の好記録で優勝した。終盤、残り50mからの追い上げは見事だった。素晴らしいねばりとスプリント。将来が楽しみな選手が、また一人増えた。

実は、私にとって幸運なことに、島田さんには昨年の秋に一度だけお会いしたことがある。川越市の笛木醤油商店の2階ギャラリーで高校陸上部の芸術祭があって、写真を出展させていただいたときのことだ。OBから、直前に行われた埼玉県新人戦での400mの優勝者だと紹介されたのだ。県のナンバーワンになるだけでも大したことだが、まさか高校チャンピオンになるとは思わなかった。
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by hasiru123 | 2011-08-07 23:38 | その他