夢のマラソン

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日本陸上競技選手権から(下)

陸上競技の短距離走はすぐに勝負がついてしまうのでなじまないが、長距離走、特に10000mはちょうどいい加減の時間である。そして、マラソンは長すぎて時間を持て余してしまう。ここでいう「いい加減」というのは、ビールを飲みながらテレビ観戦するときの時間の長さのことである。この3日間、陸上競技の日本選手権を観戦していてふと思ったのはそんなことだった。

10000mと5000mの決勝は、男女ともみごたえのあるものだった。特に、女子の両種目は勢いを感じさせるレースぶりだった。10000mでは、昨年の優勝者鈴木亜由子(日本郵政グループ)と松田瑞生(ダイハツ)とのマッチレースとなったが、ラスト100mでインコースからスパートした松田が優勝した。1位から3位までの選手が標準記録を超えた。

5000mでは、鍋島莉奈(日本郵政グループ)が標準記録をクリアして初優勝した。両種目とも2位に入った鈴木は本調子ではないながらもレースを引っ張り好記録につなげる役割を果たした。

いずれの種目とも女子は、すでに標準記録をクリアしている選手たちが積極的に前へ出て、競争の中から結果的に好記録に繋げている。まだまだ伸びしろのある選手が多いので、本番前にできるだけ多くの大会に出場してペースの変化に対応できるスピードに磨きをかけてほしい。

それとは反対に、男子は元気がない。男子の出場選手では、両種目とも標準記録をクリアしている選手はなく、競技の中でも記録達成は見られなかった。10000mは、スローペースで展開し、終盤の駆け引きが熱を帯びた。残り600mくらいで大迫傑(Nike ORPJT)が3人の争いから抜け出して、2位に15メートル近い差をつけてゴールした。

5000mもゆったりしたペースで入り、1000m位から鎧坂哲哉(旭化成)や上野裕一郎(DeNA)らが交代で引っ張ったが、最後は松枝博輝(富士通)ら3名の争いとなり、残り50mで松枝が後続を振り切った。

このレースを見て、世界陸上に出場するためのもっとも重要な要件を先送りする男子の戦略に疑問を感じた。いずれのレースも抜きつ抜かれつの激しい戦いとなり、国際大会を見ている気分にさせられた。ただし、記録的には物足りない。世界のトップクラスがそろう大会であったなら、完全に周回遅れのレースになったはずだ。はじめから標準記録超えを放棄しているとしか思えない、消極的な走りだ。

標準記録よりもまず日本選手権で優勝もしくは上位に入賞して、その後の選考対象レースで標準記録を突破すれば世界陸上の代表になれると考えているのかもしれない。たしかに残り1か月強の日程で標準記録を超える選手少なからず出るとは思う。だが、順番が逆ではないだろうか。標準記録をクリアしない限りは日本選手権の成績いかんにかかわらず代表になることはない。

標準記録を持たない選手たちは、なぜ日本選手権で優勝と標準記録の突破を同時に狙わないのだろうか。一人で引っ張っても途中でペースダウンししてしまうのではないかとか、ライバルにつかれて最後にやられてしまうのではないかなどと、不安があるのかもしれない。であれば、同じチームのライバルたちと組んで交代で引っ張ったらどうだろうか。そこへ複数のチームが参戦したなら、さらに高いレベルの競争が生まれるかもしれない。ちなみに、10000mでは旭化成から5名、トヨタ自動車から4名、富士通から2が名出場していた。

そうした激しい競争の中からでないと、好記録は生まれにくい。

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by hasiru123 | 2017-06-29 16:46 | 話題

日本陸上競技選手権から(上)

今年の日本陸上選手権は世界陸上選手権ロンドン大会の代表選考会を兼ねて行われた。注目の男子短距離では、サニブラウン・ハキーム(東京陸協)が100mと200mで2冠を達成した。

100m決勝は、今季10秒0台を出して、参加標準記録を持つ選手が5名いて、それぞれが決勝に進んだ。まれにみる激戦となった決勝は、予選と準決勝を10秒06で走ったサニブラウンが2位の多田修平(関学大)を0.11秒の差をつけてゴールイン。

200m決勝でも、サニブラウンは強かった。スタートから飛ばして、本命と思われていた飯塚翔太(ミズノ)を寄せつけなかった。

今年の両種目は一段とレベルが上がり、世界との差がかなり縮まった。また、世界陸上の決勝へ進める選手が現れるのではないかと期待を持たせる結果でもあった。そして、記録面でも100mは9秒台、200mは19秒台への突入が現実味を帯びてきた。

思い起こせば、世界で初めて100mを9秒台に乗せたのは、1968年のジム・ハインズ(米)によってであった。その後も77年に9秒台が出されたが、いずれも高地記録だった(高地は平地よりも酸素が薄いため短距離走には有利とされている)。したがって、平地での初の9秒台は83年にカール・ルイス(米)が樹立した9秒97である。

それから33年がたち、ようやく日本も、というところまで来た。気象条件と競合する選手の条件がそろえばいつでも実現できそうな気がする。その壁が大きいだけにその突破が注目されるが、選手にはこの壁を最終目標にしないで、その先の世界へ目を向けてほしい。

じっくりと待つことにしよう。


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by hasiru123 | 2017-06-26 20:58 | 話題

今年の日本陸上競技選手権は

いよいよ6月23日から3日間にわたって、日本陸上競技選手権大会が始まる。今回は、8月に行われる世界陸上のロンドン大会代表選考会を兼ねている。記録的な期待とともにだれが世界陸上の切符を手にするかに関心が集まる。

男子100mを始めとして同200m、同400mH、同棒高跳び、同やり投げ、そして女子10000mなど、楽しみな競技が多い。特に、男子100mでは気象条件が良ければ9秒台への期待が膨らむ。そして同200mも飯塚翔太(ミズノ)が過去に派遣設定記録Aに相当する記録を出していて、参加標準記録を超えている選手が4名いる。加えて、同4×100mリレーの選考も絡んで、短距離は近来にない激しい競争になりそうだ。

長距離種目はどうかというと、いつものように女子5000mと同10000mは力のある選手がそろった。参加標準記録を超えている選手が5000mは7名、10000mは14名もいる。速いペースでの競り合いになれば、複数選手の派遣設定記録Aの突破も夢ではない。ただし、残念なのは昨年の日本選手権で長距離2冠を達成した鈴木亜由子(JP日本郵政G)が故障で出遅れていることだ。

女子に比べると男子の長距離陣は少し寂しい。参加標準記録を切っているのは10000mで1名、3000m障害で2名である。マラソンのレベルアップのためにも、積極的に記録に挑戦してほしい。

ところで、「派遣設定記録A」とか「参加標準記録」などと書いてきたが、これは何を意味するのかについて、少し説明を加えたい。派遣設定記録Aは、世界ランク12位相当(1ヶ国3名)で8位入賞が期待できる記録で、参加標準記録は国際陸上競技連盟が定めた参加標準記録のことである。また、派遣設定記録Sといって、世界ランク6位相当(1ヶ国3名)でメダルが期待できる記録水準というものある。これらの記録と日本選手権の結果を併せて世界陸上の代表選考基準が設定されている。

たとえば、男女の長距離種目だと、「参加標準記録+日本選手権優勝」か「派遣設定記録A+日本選手権8位以内の最上位」に入れば、日本選手権の段階で即内定となる。また、「派遣設定記録A+日本選手権8位以内」か「参加標準記録+日本選手権3位以内」「参加標準記録+日本GP優勝+日本選手権8位以内」に入れば、第1次代表選手発表時(日本選手権の翌日)に内定する。したがって、記録とともに日本選手権の順位が重要となる。

記録と順位をにらみながら、日本選手権の競技を観戦するとより楽しみが増すことだろう。


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by hasiru123 | 2017-06-16 06:14 | 話題

プレッシャーを幸福な気分に変える

江國香織さんの「支度」と題したエッセイに、「かなり幸福だ、と思う時間に、出かける支度をしている時間、がある」というくだりがある。

着るものを選び、身に着け、その間に鞄や靴を頭の中で決め、その日の予定に思いをめぐらせ、電車に乗ったり喫茶店で人を待ったりするようなら本をもっていかなくてはと考え、本の入る鞄でなくてはと考え、香水を選んでふきつけ、化粧をし、同時にその日に会う人の顔を思い浮かべ、・・・と、さらに8行ほど続いて、準備完了、となる。

「夜ごはんの約束のために夕方支度をしている、という状況はとりわけ幸福だ」。そして、「おもしろいのは、時間に追われることが大事だという点だ」とも書いている。

こうした経験は、だれにでもきっと、ある。若いときだったら、スキーに行くときの支度や、登山をするための準備などは、この気分にぴったりである。先に、何か面白そうなことが待っていれば、そのための支度はとるにたらないものであれ、忙しいことであれ、幸福感に満ちている。

支度に時間を費やすことを意図的に利用する手もある。

たとえば、マラソン大会の出場を翌日に控えて、遠征先へ持っていく荷物を確認するときだ。

移動に交通機関を使う場合の本は何を持っていこうか、夕食時に飲むビールは何にしようか、そもそもビールはやめておこうか、宿泊先でゆっくり休むにはどんなナイトウエアがいいだろうか(備え付けの浴衣は脚が開けて安眠を妨げるので)、朝食は何時にしようか、朝食後にトイレを快適に済ませるためにはどんなものを食べたり飲んだりすればいいか、ウォーミングアップ前にお腹にはどんな軽食を入れたらいいか、スペシャルドリンクには何を使おうか、などを検討する。さらに、ウォーミングアップ時とスタート前、ゴール後の着替えを決め、宿泊先から会場までの交通手段を調べる、当日の起床からスタートまでのToDoリストのようなものを作り、最後に前日までの仕上がりからどんなレースをしたいか方針を決め、5キロごとのラップを設定し、ウォッチに記憶させる。

これらの支度をだらだらと進めてはだめで、ある程度てきぱきと行う。「ある程度」というのが肝である。また、細部にわたる検討は必要だが、ち密な計画はやめたい。あくまでも、支度を楽しむ心のゆとりが必要だ。このことによって、レース前のプレッシャーを幸福な気分に変えることができるからだ。

エッセイの著者は、こう締めくくっている。「この場合、ある種のあわただしさが、決めてなのだ」。


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by hasiru123 | 2017-06-06 06:30 | マラソン