人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ブログトップ

北海道大雪山系の遭難事故から

北海道大雪山系のトムラウシ山と美瑛岳で一般登山者が遭難し、10人が死亡した。山岳史上まれに見る大惨事である。当時の天候は大荒れで、低温の上に強風が吹いていたという。犠牲者は雨で体温を奪われ、体の熱が急速に奪われる低体温症などに陥ったとみられる。

最近は若者の登山が減り、一方では中高年層の間で登山ブームとなっているのは周知のとおりである。それに呼応して中高年の遭難者数も増えている。警察庁生活安全局が発表した「平成20年中における山岳遭難の概況」によると、中高年の遭難者は1,567 人で全遭難者の81.1 % を占めているが、中でも55 歳以上の遭難者が多く、全遭難者の64.0% を占めている。

同報告書では、中高年の遭難事故の直接の要因で多くみれれるのは「道迷い」(37.0%)や「滑落」(19.1%)、「転落」(14.7%)などとなっている。今回の遭難に関係のありそうな「疲労」(4.8%)や「悪天候」(0.6%)の構成比はけっして高くない。それらの要因は、体力の衰えた中高年であっても、注意力や装備、知恵によって解決できるからではないだろうか。

大雪山系は私も登ったことがある。夏だったが、2000mくらいの山々でも、本州の3000m級の高山に相当するくらいの気候であった。登山者は少なく、静かなたたたずまいは、自然をじっくり味わうのに最高である。登山者の多い北アルプスなどと大きく異なるのは、山小屋が少ないことである。あっても避難小屋で、有人で宿泊できる小屋は数えるほどしかない。また、小屋と小屋との距離が長いことも大きな違いである。

遭難した2つパーティーは、旅行会社の企画したツアーだった。また、経験のある現地のガイドが3名加わっていた。それにしては残念な結果である。危険度の高い北海道の登山だからこそ、ガイドつきのツアーがあるのだと思う。参加者の装備や体力、体のコンディションなどを見て最適の行動を選択するのが、ガイドの使命である。にもかかわらず、報じられている生還者の証言が正しいとするならば、ガイドの責任は重大だといわざるを得ない。

以下に、7月19日の読売新聞の記事からパーティーを引率したガイドのかかわったところについて、箇条書きで整理してみた。

○ガイドは遭難当日早朝、出発前のツアー客に対して「天候は昼前には良くなるだろう」と説明していた。実際には、天候が悪化して5人しか自力下山できていない。

○ツアーは13~17日のうちの3日間で、旭岳からトムラウシ山の計45キロの行程を縦走する計画。一行は遭難当日午前5時半頃、宿泊した避難小屋を出発し、遭難した。

○前日夜に同じ避難小屋に泊まった別のグループによると、遭難した2つのパーティーは翌日午前5時に小屋を出る予定だったが、風雨が強いため、出発せずに様子を見た。この時、遭難したパーティーの同行ガイドがツアー客に対し、「午前中は前線の影響で天気が悪いが、その後は良くなるだろう」と説明し、予定より約30分遅れて出発した。別のパーティーは、その約5分後に出発した。

○釧路地方気象台帯広測候所によると、当日午前6時の十勝地方の天気は「晴れ」だったが、その後に風が強まり、午前11時55分には強風注意報が発令されていた。

○別のグループの一人(男性、66)によると、遭難したパーティーは歩みが遅く、午前9時頃には山頂の手前約1キロの地点で追い抜いた。この時すでに天候は悪化しており、強風で岩にしがみつく人もいたという。

○遭難したパーティーは連日8~10時間縦走する日程で、遭難前日には雨の中を約10時間行動していた。一方、別のグループは1日の徒歩時間が4~10時間だった。

○別のグループは16日夜、全員が無事下山しており、男性の一人は「遭難したパーティーは相当疲れているように見えた。我々は日程に余裕があり、さほど疲れていなかったので下山できたと思う」と話している。

この記事を読む限り、今回の遭難事故は、登山者の不注意や体力不足、技術不足などによるものではない。引率したガイドには、技術はプロであっても、ツアー客を安全に誘導するという使命感と判断力が著しく欠けていた。それがこの遭難の本質のように思う。本多勝一氏はかつて、この種の遭難のことを「自動車レースの選手でありながらバス運行のための免許もなくルールも知らないようなもの。結果としてやはり無免許バス運転手」と言い表わしたことがあった(朝日新聞社『リーダーは何をしていたか』)。「山の素人たちを無知なリーダーが危険な場所へ引率する種類の、かつては考えられなかった遭難が、今後もふえるおそれが出てきました」と書いたのは1997年だったが、今もこうして繰り返されている。

業務上過失致死の疑いで捜査を始めた北海道警は、遭難に至った経緯を徹底的に調べてほしい。なぜ、無謀な行動を止めることができなかったのか。また、ツアーを企画した旅行会社の責任は・・・。これから、山に向かう人たちのためにも。


<追記>
このことを書こうと思いついた背景には、大雪山系遭難がランニングを始めとするスポーツ活動についても、集団で行動する際の警鐘になるような気がしたからである。私の参加している若葉グリーンメイトを拠点とするランニングは、競技、競走を主目的としたものではないが、トレーニングとして走るからには身体的な危険と隣り合わせでもある。

ふだんの練習会、集団としてのレース参加や駅伝、合宿など。それらは、ランナー同士の競合に始まり、交通事故、身体的なアクシデント、気象の変動、練習環境やコースの不慣れなど、危険に出会う可能性は枚挙に暇(いとま)がない。「無免許バス運転手」にはけっしてなららないよう、細心の注意と備えを怠らないことが大切である。この事故を教訓に、会としてのガイドラインのようなものを早急に検討・作成し、実行に当たりたいと思っている。
by hasiru123 | 2009-08-02 22:01 | 練習