『黒人はなぜ足が速いのか―「走る遺伝子」の謎―』(若原正己/新潮社)を読む

黒人はなぜ足が速いのか―「走る遺伝子」の謎 (新潮選書)

若原 正己 / 新潮社


NHKの特集番組で『なぜ速い? ケニヤのランナー』というのがあった(2001年12月14日放映)。ケニヤ選手が速いのは彼らの身体の体型にヒントがあるようだ、というの趣旨の解説が終わりにあったように記憶している。この番組はVHSビデオに収録してあるのだが、残念なことに今それを見るためのレコーダーが故障していて見ることができない。

そこで、番組のタイトルをGoogleで検索をかけてみたところ、約45,900件の関連する言葉がヒットした。さらに条件を絞り込むために「NHK」という言葉を追加して検索したら、それでも25,800件あって、お目当ての番組に関連した情報にはたどり着けなかった。なぜこのキーワードを調べようとしたのかというと、本書を読んでかつて観た番組の映像を思い出したからだ。

「なぜ短距離はカリブ海勢が強いのか、なぜ中・長距離走は東アフリカ勢が強いのか」。そうした疑問がきっかけとなって書かれたものである。著者がまとめた現在の男子100メートル走の世界10傑では、選手の国籍はまちまちだが、「全員が黒人であり、その出自を調べてみると全員がその祖先を西アフリカにもっていることがわかる」。男子マラソンの世界10傑では、出身国を見ると、全員が東アフリカ(エチオピアとケニヤ)と北アフリカ(モロッコ)である。「マラソン界を席巻しているのは東アフリカと北アフリカ勢」と結論付けている。女子の場合も、概ねこの傾向が出ている。

本書では、人種間の遺伝的な違いに着目して考察している。この視点については、冒頭で指摘しているように「実にやっかいで微妙かつ難しい問題を内包している」。人種差別をめぐる問題である。例えば、「黒人の運動能力が高く、白人のそれを大きく上回る」とか「それを決めているのは遺伝子」などといった議論自体が黒人差別を助長することにもなりかねないからだ。人種間には歴然とした運動能力の差があり、そのちがいには何らかの遺伝的な背景があるのではないか。ただし、人種間の差異を安易に遺伝的な差異でのみ説明することは人種差別につながりかねないことから、注意深く科学的な知見や論証を重視つつ、論を進めている。

走力と遺伝子にはどんな関係があるのか、短距離・瞬発力系の遺伝子、長距離・持久力系の遺伝子とは何か。タンパク質やアミノ酸に関する専門的な用語が多く出てくるので、正直言って読了するのがかなりしんどかった。そのために、最新の高校生物の教科書(改定生物Ⅰ、生物Ⅱ/第一学習社)を辞書代わりに使いながら読み進めた。話は少し脱線するが、この教科書は、3年前に仕事で、ある調査を企画する際に使用したものだが、今回読み直してみて、そのレベルの高さ(私のレベルが低いだけ?)に改めて感心したものだ。サイエンス系の教科書はかなり進化している、と。

話を戻そう。カリブ海勢でもなく、東アフリカ勢でもない日本人選手の走る競技対する未来のメッセージと受け止めた。
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by hasiru123 | 2010-10-03 22:17 |