2019年 06月 04日
映画『長いお別れ』を見る
認知症は病気なんかではない。そう確信させられたのがこの物語だった。
原作(中島京子の同名小説『長いお別れ』)を読んでいたので、見ながらどうしても引き比べてしまうのは仕方がないことだろう。
小説は八つの短編からなっている。最終章の「QOL」(クオリティ・オブ・ライフ)の中で、次女・芙美(蒼井優)は父・東昇平(山崎努)が退院したらどういう生活になるかと質問する。医者は「お嬢さんが、がんばるしかありません」とにべもなく言う。こうとしか答えようのないのが、認知症家族の厳しい現実なのだ。
しかし、10年間にわたる父と家族との交流を伝えるエピソードで明るく、そして暖かいものに仕上げた。認知症を「家族」という視点からのぞくと、こうも見えるものなのかと教えられた。さらに、映画では中野量太監督の独自の持ち味で彩りを添えて、二つの作品が素晴らしい協奏曲になっている。
たとえば、2011年では東日本大震災や2013年では東京五輪開催決定に関する一コマ、次女が作る自動車販売でのカレーライスなどが小説にはなかったエピソードが埋め込まれている。
また、妻・曜子(松原智恵子)が勧めてもデイサービスに行こうとしない頑固さや元校長らしい振る舞いが影を潜めたように思える。また、家族構成も少し変えている。
しかし、父が見知らぬ子供たちと回転木馬に乗るシーンで始まり、海外に住む孫が現地の中学校の校長先生に祖父の死を伝えるシーンで綴じられるのは、小説と一緒だ。校長先生は孫に認知症という病気は、少しずつ記憶を失くしてゆっくりと遠ざかって行くから「長いお別れ(ロンググッドバイ」と呼ぶのだと説明する。
周りの人たちも含めて、これから認知症とどう向き合っていくのか、長い旅が始まった。