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『スポーツは体にわるい』を読む

 「通常の運動を若いうちから始めれば、やり方によっては寿命を延ばすこともあるが、中年から始めた場合は、寿命を確実に短くする」という結果が、ある研究者の動物実験から判明した。「スポーツとは生物的、医学的に見て、どうう考えても体にわるい」「スポーツのあと<いい汗をかいた>などというのがおかしいのであって、スポーツの汗も”冷や汗”も、体にとってはピンチな状態を意味し、歓迎せざること」なのだそうだ。

 これまでランニングをはじめとする各種のスポーツに積極的に取り組んできた人にとっては、大変ショッキングなメッセージである。「スポーツが体にわるい」理由は、「心身に大きなストレスを生じさせ」「活性酸素という猛毒の物質を体内に多量に発生させるから」だという。健康に貢献するはずのスポーツが、活性酸素の元凶だというのである。活性酸素のメカニズム、スポーツによるストレスと病気との関連分析、成人病の予防や治療への効果、子ども・女性・中高齢者とスポーツなどについて、スポーツで体をこわさないための視点に立って述べている。「成人病に運動療法は有効か」の章では「少し肥満の方が長生きする」「脂肪は生命力の象徴である」と必ずしも脂肪は「悪」ではなく、少し太めの方が体にいいことを実データに基づいて解説し、最近のダイエット志向に警鐘を鳴らしている。

 マラソンについてもこれまで常識とされていたことが、ことごとく否定されている。そのひとつが「グリコーゲン・ローディング」(カーボローディングともいう)だ。この方法は、運動時にエネルギー源となるグリコーゲンを効率よく体内に蓄積するための方法である。運動前には消化・吸収のよい炭水化物を摂取する選手が多いが、急激に血糖値があがり、大量のインスリンが分泌される。このような極端な変動が繰り返えされると、血糖値の調整機構がこわれ、やがて糖尿病の発病を促すことになる。私もフルマラソンでは、スタート1週間前から「緩やかな方法で」実行してきたが、一部に医学的な面で否定的な見解が出されていることは知っていたので、あくまでも「緩やかな方法で」行っていた。改めて、「グリコーゲン・ローディング」の見直しが必要であろう。

 もうひとつは、「スポーツドリンクの恐ろしさ」である。スポーツドリンクによるレース前のブドウ糖の多量摂取は、一気に血糖値の上昇を招き、それを抑えようとしてインスリンが多量に分泌されるというのだ。最大酸素摂取量の70パーセントの強度の運動をする45分前に、ある選手に70グラムのブドウ糖を投与し、何もエネルギー源も補給しなかった選手とレースをさせて比較したデータを参考にあげているが、説得力のある解説である。

 そのほかにも、水泳は血糖値上昇因となるので「体にいいとはいえない」し、「ウォーミングアップは、一般の人には敬遠すべきだ」という。ここまでスポーツを否定されると、スポーツはやらないに限るのかというと、著者はそこまでは言っていない。スポーツで体をこわさないためには、今までのスポーツの常識を盲信するな、という意味に理解した。スポーツの体への影響について、さらに科学的な解明が行われることを念願してやまない。私は、昨年秋に足を故障した折りにこの本に巡り会ったが、これまでのトレーニング方法を省みるよい機会となった。

 なお、著者は本書の中でも触れているとおり、大のスポーツ好きで、球技や山登りを愛する基礎老化学者である。

                 加藤邦彦著(カッパブックス・品切れ)
by hasiru123 | 2005-02-11 14:36 |